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琵琶の起源

私の弾く琵琶の起源となった楽器は、ササン朝ペルシアで生まれた「バルバット」という楽器だと言われています。
正倉院に残る楽器には、楽器のネックの部分が曲がっているものと、まっすぐなものの2種類があります。
曲がっているものはアラビアのウード、西洋のリュートと同じ起源の楽器であり、まっすぐなものはインドが起源とされています。
しかし、首がまっすぐなタイプ(直頚琵琶)は後継が亡くなったため廃絶してしまいました。
バルバット自体は現存しないため、日本の正倉院に残るものが時代的には最古のものとなるようです。
正倉院は、貴重なタイムカプセルの役割を担っていたのですね。

楽器の胴体部分についている三日月型の響孔も、琵琶が生まれた国※に由来するとも言われています。
(※ 月氏国。この月氏の末裔が歴史上でもミステリアスなソグド人といわれています)

ササン朝ペルシアがあったのは現在のイランにあたる場所。
首が曲がっている方の楽器が中国に伝播したのが前漢の頃で、当時は「胡琴※」と呼ばれていました。
(※ 西方の弦楽器の意。宋代~現在まで胡琴と言われている楽器とは異なる。)
ウイグル語のバルバットが漢の言葉に音訳されて「琵琶」という名前となったという説の他に、絃を弾く音を「琵」、弾く音を「琶」という動作から「琵琶」と名付けられたという説もあります。

雅楽で使われる琵琶は、他の琵琶に比べ一番大きく重く、反対に撥(ばち)は一番小さくて軽く華奢です。
絃は4絃で絹で出来ています。
奏者は琵琶を正面を向かせて横に構え、奏者の胸の辺りから下へ向けて撥を下ろしながらアルペジオ風に弾きます。
独奏ではなく、リズムキーパー的な役割です。

琵琶の伝播した理由

ペルシアで生まれた楽器がこんなにも広範囲に渡って伝播した理由は、商人集団としても有名なソグド人が、楽人や仏僧となって仏教的儀式の中に取り入れた琵琶を広めていったためという説があります。
やはり、宗教の力というのは文化の伝来に大きな影響力を持つものなのですね。
ちなみに、奈良の唐招提寺を開いた鑑真和上の側近の安如宝(唐招提寺第4代目住職)もソグド人だったと言われています。
ソグド人とは、中央アジアのゼラフシャン地方に住んでいたイラン系のオアシスを灌漑して農耕をしていた人達で、商業を得意とし、シルクロードにおける有名な都市、「サマルカンド」や「ブハラ」、「タシケント」などを形成し、商人集団として中国との交易に専ら従事していました。
彼らの居住地である「ソグディアナ」(現在のウズベキスタン)がシルクロードの中間地点に位置していたため、交易に従事することで様々な恩恵を国の内外にも伝えていたようです。

彼らが扱った品は、絹織物、鉄製品、陶磁器、西方からの金銀器、ガラス製品、瑪瑙、玉、琥珀、真珠、サンゴなどの宝石類と金塊、香辛料、薬草、葡萄酒、香料、絨毯など。
さらに、彼らは陸路だけでなく、海のシルクロードでも活発に交易活動をしていました。
ペルシアのことはその昔、胡国と呼ばれていましたので、胡瓜(キュウリ)、胡桃(クルミ)、胡豆(そらまめ)、胡蒜(にんにく)、胡椒(コショウ)、胡麻(ゴマ)、胡蝶(蝶の別名)、胡蜂(スズメバチ)、胡粉(ごふん)、胡弓、胡坐(あぐら)などはペルシア起源と言われています。

琵琶のふるさとからやって来たのは、楽器だけではなく、文化や人、食物そして浪漫。調べれば調べるほど興味の尽きない楽器、琵琶。
次章では、東洋に残る琵琶の種類についてお話します。