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リュート

日本以外の琵琶の仲間。
今月は西洋に拡がって行った楽器(主にリュート)を追い求めてみます。
古代ペルシャ(現在のイラン)で生まれたバルバットは、アフガニスタン経由で東へ伝わり、東洋では前回のお話のように拡がっていきました。
西へは、アラビアでウードとなって、それが西洋リュート族の原型となって行きます。
後にリュートとして発達する楽器の原型ウードがどのようにヨーロッパにもたされたのかについては、諸説あるようですが、十字軍(11~13世紀)によって中東から伝播した説、アラビアの商人によって運ばれたという説あたりに落ち着くようです。

アラビアのウードは、背面の両端が細くなった形の湾曲させた木片を並べて組み立てられているため、胴の背面がふっくらと膨らんでいて、その様子は洋ナシを縦に半分にしたような感じです。
このふくらみを持たせた設計によって、ウードは独特の共鳴を持ち、複雑な音色を持つようになりました。
西洋のリュートも背面の様子は大変よく似ています。
リュートやウードという名前は、木を意味するアラビア語、”al‘ud ”(アル・ウード)に由来しています。

リュートは、ヨーロッパでは16~17世紀(ルネサンス初期~バロック期)を中心に、大変好まれる楽器へと発展し『楽器の王(女王)』とも呼ばれて、 ヨーロッパのほとんどの国で使われた人気楽器となりました。 流行の初期には、吟遊詩人が歌の伴奏として用いました。その中でも11世紀頃に南フランスの宮廷で現れた、トルバドゥールと呼ばれる吟遊詩人は、イスラム文化圏からの影響を受けたといわれています。
主に形式化された宮廷愛や十字軍に関する物語を主題とする歌を歌いながら各地の宮廷を遍歴していた彼らは、実は城主や騎士といった貴族出身の者が多かったとも言われているのが面白いところ。
世俗の歌の他に宗教曲のメロディーを折り込んだ曲を即興的に演奏して人気があったようです。

いずれにせよ、その魅力的な音色は当時の特権階級の人々をも魅了して、ヘンリー8世、エリザベス1世、ルイ13世などもリュートを習っていたといいます。
ガリレオ・ガリレイやウィリアム・シェークスピア、レオナルド・ダ・ビンチなども皆リュート弾きでした。
彼らが活躍した時代の紳士の条件は「詩が書ける、歌が歌える、リュートが弾ける」ことだったそう。
高い教養と技巧が好まれた時代。
女性を口説くのにも一役買ったのではないでしょうか?
(ちなみに、当時の弦の原材料には、羊の腸が使われていました)

ギター・ヴァイオリン

同じリュート族の楽器。他には、ギターやヴァイオリンなども仲間になります。
木で作られた、響鳴する胴とネック(竿)を持つ弦が張られている楽器はリュートの親戚筋にあたるので、今日ヨーロッパに見られる弦楽器のほとんどは、大きなカテゴリーとしては、すべてリュート属であると言えます。
リュートは現在でも古典楽器として現存していて、CDも手に入ります。
音量はそんなに大きくありませんが、その深みのある温かい癒し系の音色は、今でも私たちの興味を引くに充分な魅力を兼ね備えています。

かつて、リュートの音色が愛された時代には、絵画の中にもリュートの姿が良く登場しました。
今月の写真は、バチカンに現存する15世紀の画家の描いたAngel Musicianというタイトルの絵の一部。
天上の音楽が聞こえてきそうな一枚ですね。