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絃について

琵琶という楽器。
実際に演奏されている場面をご覧になったことはありますか?
琵琶という名の由来には諸説ありますが、“琵”が絃を弾く(上から弾く)、“琶”は絃をはじく(下から引っかける)という意味があるのだそうです。

遣唐使が持ち帰って来た琵琶は、胡坐で床の上に座り、横抱きにした状態でリズムキーパー的に上から下に向かって、小さな撥を使って絃を奏でていました。
日本の琵琶では、平家琵琶も横抱きにしたスタイルで演奏します。
源氏物語絵巻など、その時代に描かれた絵画の中にも、演奏者が琵琶を横抱きにして演奏している様子が描かれています。

薩摩琵琶や筑前琵琶が盛んになって、それまで主流だった四弦タイプのものから五弦タイプのものが派生すると、その演奏スタイルも、琵琶を膝の上に立てて演奏する形へと変わっていきました。

重宝された陰陽師

琵琶はどのような楽器なのでしょうか?
この楽器が活躍し始めた平安時代は、天変地異が起こったり、飢饉で人々が苦しんだり、いろいろと世の中が大変でした。
中でも“殿上人”と呼ばれる貴族の社会には、様々な人間の思惑が入り乱れ、出世を欲した者たちの欲が醜くも花開いた背景がありました。

そこで、重宝されたのが“陰陽師”。
彼らはその特殊技能を駆使して、祈祷をしたり、占いをしたり、術をかけたり、呪術をかけられた者を助けたり大忙しでした。
そんな彼らが駆使した“陰陽道”と琵琶の間には、実は深い関係があるのです。

まず、琵琶についている柱(ちゅう)。
ギターなどでいうところのフレットですが、上から、「木・火・土・金・水」と名がついておりまして、読み方は「もく・か・ど・こん・すい」。
陰陽五行なのです。
また、響孔のように胴体に付いている三日月は、盲僧琵琶などでは丸型と三日月型の一対となり、それは日輪と月輪を表している、とされています。
日輪と月輪―すなわち、陰と陽。
陰陽道なのです。

音で魔を祓う、という意味もあったのでしょう。
かつて宮中では、何か不吉なことがあったりすると、それを祓う目的で『鳴弦の儀』というものが行われました。
これは、梓の木で作られた弓を、矢をつがえずに構え、その弦を引き、音を鳴らす事によって気を祓う退魔儀礼で、魔気・邪気を祓う事を目的としていました。

琵琶は絃を奏でることも、絃を打ち付けるように鳴らすことも、その胴体(腹)を打楽器のように叩くこともできる楽器でした。
魔を祓う、というところでは、かつて比叡山延暦寺を開こうとしていた時、伽藍を立てようとしていた土地に蛇が出て困ったことがありました。
その時、地神経を琵琶の音に乗せて演奏したところ、蛇はおさまり、無事に伽藍を建立することが出来たというのです。
もともと蛇は弁財天の眷属(けんぞく)。琵琶は弁財天の持物でもあるところから、納得できる話ですね。

耳なし芳一

小泉八雲の『怪談』であまりにも有名な『耳なし芳一』の話。
これも、芳一の奏でる琵琶の音の素晴らしさに、在りし日の姿を思い出して修羅の世界に堕ちたその身を嘆く平家の亡霊が魅了され、夜な夜な琵琶を弾かせるお話でした。源平の合戦の後、平家の物語を語って回った琵琶法師たちは、彼ら自身が“平家”と呼ばれ、彼らの役割の一つは、生きている人たちに物語を聞かせて回るだけでなく、命を落とした平家の者たちの魂を鎮めて回ることにあった、ともいわれています。
琵琶の音色には“魂鎮め”の役割もあった、というわけです。
琵琶はどんな楽器?と問われたら、日本に古くから伝わる伝統芸能の楽器の種類の一つ。
でもちょっと不思議な要素があるみたい…。
こんな説明になるでしょうか。
次のお話は、琵琶と語り物についてお話しますね。