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弁財天(サラスバティー)

琵琶を持っている姿の仏様、といえば弁天(正しくは弁財天)様です。
弁天様はもともとヒンドゥー教から伝来した神様です。
サラスバティーという聖なる河を神格化した神様なのです。
その水音を妙なる音に例えて琵琶を持っているのですね。
(ちなみに、日本の仏教の寺院に祀られている仏様で『○○天』と名がついているのは、ヒンドゥー教の神様が仏法を守護する存在に変わられたお姿です)

日本は、ある意味文化のミキシングがうまいので、弁天様は仏教において、妙音菩薩と同一視されたり、神道の宗像三女神の一柱である市杵嶋姫命(いちきしまひめ)と同一視されて七福神の一人にも数えられています。
更に、同じくヒンドゥー教の女神で毘沙門天の奥様でもある吉祥天などの持つ性質も吸収して、インドや中国などの日本へ伝わった仏教の故郷の国々とは異なる性格を備えるようになりました。
弁財天、または弁才天と表記されるのは、もともと福徳神としての性質も持っているうえに、「才」=「財」に通じることから、財宝神としての性格が強く加わったことに由来します。
日本では、さらに農耕の神である宇賀神(宇賀は宇迦之御魂神に由来するといわれる。宇迦之御魂神は伏見稲荷の主祭神)と合体し、秋に稲穂が黄金の実りを迎えるように、財宝神としての性格が強くなっていったものと思われます。
河を神格化する神なので、その眷属は蛇とされ、銭洗い弁天などでは生卵が供えられますが、この宇賀神という神は頭が老人で身体が蛇という姿であることも無関係ではないのかもしれません。
宇賀弁財天としてのお姿の特徴は、八本の腕を持つお姿で、頭の上に鳥居が乗っており、その鳥居の下に老人の頭を持つ蛇の姿が表されているものです。

古代インドにおいては、音楽神としての性質のほか、福徳神、学芸神、戦勝神などの幅広い御利益があるとされています。
その姿は、腕が二本(二臂)のものと八本(八臂)の2種類があります。
八臂の弁財天は『金光明最勝王経』という経典の中の弁財天に関する記述に由来し、八本の手に八つの武器を持ち、知恵の神であると同時に、鎮護国家のための戦神としての性格が強められた格好になっています。
二臂の弁財天は、琵琶を膝の上に抱えて撥を持って演奏する音楽神のお姿です。
密教で用いる両界曼荼羅のひとつ『胎蔵曼荼羅』にも描かれており(菩薩形)、『大日経』では妙音天、美音天と呼ばれ、ヒンドゥーのサラスバティーに近いお姿となっています。

ちなみに、日本での弁天様の御真言は
『おん そらすばてぃー えい そわか』

そらすばてぃー」はサラスバティーを示しているのです。

日本では、水に関係する地にお祭りされている弁天様。日本三大弁天として知られている場所にも諸説ありますが、神奈川の江島神社、広島の厳島神社および大願寺、琵琶湖に浮かぶ竹生島神社および宝厳寺、奈良の天川大弁才天社などが有名です。
中でも、奈良の天川村にある天川大弁才天社は、山の中にあり、能楽関係者との縁も深い神社。
かの弘法大師空海も、高野山を開く前に修行をしたと伝えられています。

また、弁天様にはいろいろなエピソードが残されています。 例えば、江戸時代のお話で、江ノ島の弁天様を信仰してやまない男が弁天様に恋焦がれてしまってなかばおかしくなってしまいそうだったとき、その男の夢に弁天様が登場して、夜のお相手をしてくれた、とか、カップルで弁天様をお参りすると嫉妬されて別れることになる、とか。
そういえば、昔からちょっと色っぽい美人のことを“弁天様”と呼んだりもしていましたっけね。
弁天様は、美人でパワフルな女神様なのです。
次の章では、琵琶のエピソードあれこれについてお話しますね。